老人ホームというと「プライバシーが確保できない」「寝たきり状態」といったマイナスイメージをもつ人が多いのが現状です。しかし「ユニットケア」という介護の形態であれば、高齢者の尊厳を守った個別のサービスを提供できます。そこで今回は、ユニットケアの概要やメリットとデメリット、ユニットケアの抱える今後の課題を解説します。
ユニットケアの概要
ユニットケアとは、個々の利用者の生活リズムやライフスタイルに合わせたサービスを提供するケアの手法です。従来の効率を優先した集団ケアから、個別ケアへの転換を目的としています。
もともとユニットケアは、福祉を推し進める欧州諸国が発祥とされています。ただ、日本でも、2002年度から政府がユニットケアを行う特別養護老人ホームに対して補助金を支給するなどして、拡大が進められています。
ユニットケアを実現するには
ユニットケアを実現するには、ハード面とソフト面、両方からの整備が必要です。ハード面では、利用者の個性や生活のリズムを保つための個室と、ほかの利用者や地域との関係を築くためのリビングやパブリックスペースの整備が求められます。
個室の設置により、プライバシーが確保され、利用者は自分らしい生活を送れます。一方で、リビングやパブリックスペースは、利用者同士の交流や地域とのつながりを促進する場となるでしょう。
また、ソフト面では、ユニットごとに配置された職員が、利用者一人ひとりの個性や生活のリズムに沿ったケアを提供します。ユニットケア型施設では、高齢者がそれぞれ個室で居住し、ひとつのユニットを構成するのは10人以下の少人数です。利用者に対してよりきめ細やかな対応が可能となるため、心置きなく生活できる環境が整うでしょう。
ユニットケア型施設の特徴
ユニットケア型施設の特徴は、従来型の多床室とは異なり、プライバシーの確保や個別のケアが充実している点です。従来型の多床室では、複数の利用者がひとつの部屋を共有するため、プライバシーの確保や個別のケアが行いにくい状況がありました。
しかし、ユニットケア型施設では、個室の設置によりプライバシーが守られ、利用者の個々のニーズに対応したケアが提供されます。
ユニットケアのメリット・デメリット
ユニットケアには多くのメリットといくつかのデメリットがあります。具体的に見ていきましょう。
メリット
まず第一に、個室が提供されるため、一人ひとりの状況に合わせた個別ケアが実現できる点が挙げられます。個室での生活は、利用者のプライバシーを確保し、個々の生活リズムやニーズに応じたケアを可能にします。
また、ユニットケア施設にはリビングや供用スペースが設置されているため、ほかの入居者とのコミュニケーションを図れるでしょう。これらのスペースは、社会的交流を促進し、孤立を防ぐ役割を果たします。
さらに、個室には、感染症のリスクを低減する利点もあります。従来型の多床室では、感染症が発生した場合に拡散のリスクが高くなりますが、個室であれば感染がほかの入居者に広がるリスク低減が可能です。施設全体の衛生管理が向上し、入居者の健康が守られます。
デメリット
次に、ユニットケアのデメリットとしては、従来型の多床室と比較して、費用が高くなる点が挙げられます。ユニットケアは、個別のケアやプライバシーを重視するため、施設の設計や運営にコストがかかるのが理由です。
入居者や家族にとっては、費用負担の増加が懸念されるでしょう。また、個室での生活においては、利用者が孤立を感じやすい点もデメリットのひとつです。
個室の利便性がある一方で、社会的な交流が減少してしまいます。社交的で人との交流を好む高齢者にとっては、とくに孤立感を感じやすくなる可能性があります。
ユニットケアの抱える今後の課題
ユニットケアは国を挙げて推進されていますが、実現には多くの課題が存在します。まず、従来の特別養護老人ホームがユニットケアに移行するには、間取りや設備の改修が必要です。
場合によってはリフォームでは対応できず、建て替えが求められることもあり、これが普及の妨げとなっています。さらに、個室になると、従来の多床室と比べて住居費用や光熱費が割高になるため、月々の出費が増えるのも問題です。
収入や年金の受給額に応じて一部減免措置はあるものの、かかる費用は介護保険の適用範囲外であり、家族にとって大きな負担となりかねません。また、介護職員に対する課題もあります。
ユニットケアでは顔なじみのスタッフによる少人数の手厚いケアが期待されますが、職員が限定されるとローテーション勤務がうまく回らなくなるリスクがあります。経験の浅い職員がユニットリーダーに就いた場合、介護の質が低下するかもしれません。
課題解決のためには、施設の改修費用や運営費用の負担軽減策、介護職員の研修制度の充実、そして適切な人材配置が重要です。ユニットケアの普及を進めるためには、これらの課題に対する包括的な対策が求められます。
まとめ
ユニットケアは、従来の集団ケアから個別ケアへと転換し、高齢者の尊厳を守るための介護手法です。個室での生活によりプライバシーが確保され、感染症リスクの低減やきめ細やかなケアが可能となります。しかし、施設の改修費用や運営費用が高額になるため、費用負担大きくなってしまうのが課題です。また、介護職員の質やローテーション勤務の問題も存在します。課題解決のためには、施設改修費用の負担軽減や職員研修制度の充実が必要です。ユニットケアの普及には、包括的な対策が求められます。