よく知っている家族が認知症になってしまうと、気持ちの面だけでなく、生活の面でも困りごとが起こりがちです。認知症の人の介護は、本職の介護職員でも容易ではありません。そこで今回は、認知症の家族と上手に接するにはどうすればいいかについて解説します。この記事が、介護で疲れている人にとって少しでも負担軽減になれば幸いです。
認知症の家族と上手く接する方法
認知症の人との上手な接し方を解説します。すべてうまく実践するのは難しいので、無理をせず少しずつやってみてください。
否定せず寄り添う
認知症の人が言ったことや行動を否定せず、優しく寄り添いましょう。認知症の人は記憶力が低下しているかもしれませんが、感情は健在です。否定されると不快に感じるので、安全に問題がない範囲で受け入れましょう。どうしても難しいときは、在宅介護サービスや老人ホームの利用を検討しましょう。
相手の話を真剣に聞く
認知症の人は同じ話を何度も繰り返します。しかし、感情は残っているため、無視されたり無下にあしらわれたりすると不信感やストレスが生じます。また、相手を褒めたり感謝したりすると、より穏やかなコミュニケーションが取れます。
認知症の人が不安を感じていることを意識する
認知症になると、見当識障害や記憶障害が現れます。自分がどこにいるかがわからなくなる見当識障害や、記憶障害による不安は、徘徊や被害妄想といった周辺症状につながります。何度も話しかけるのは不安の表れかもしれません。ゆっくりと話を聞いて、安心してもらいましょう。
認知症の人との会話、コミュニケーションの小さな秘訣
認知症の人とコミュニケーションを取るうえで役立つテクニックを、最後に紹介します。まず、視線を合わせて話すことで、相手の表情や仕草がよく見え、どんな気持ちで話しているのかを把握しやすくなります。
ゆっくりと、大きめの声で耳元で話すことも有効です。聴力が低下していることがあるため、明確な言葉を使い、同じ言葉で伝えてあげるとよいでしょう。
避けるべき接し方を紹介
次に、避けるべき接し方を解説します。
一方的に叱責する
認知症の人に対して一方的に叱責すると、自尊心や信頼関係が損なわれます。叱責する代わりに、落ち着いた声で話し合いをすることが大切です。安全に問題がない限り、本人がどんな気持ちかを理解しようとする姿勢が求められます。
しかし、これは非常に難しいことであり、ときには怒りの感情になってしまうこともあるでしょう。その際には、自分を責めすぎないようにしましょう。
細かい指示や注意を繰り返すこと
認知症になるとミスが増えるため、細かい指示や注意を繰り返してしまいがちです。自分がやろうと思ったことに対して細かく指示をされたり、注意を繰り返されたりすると、圧迫感や不快感を覚えることがあります。
また、細かい指示をしすぎると自分で考えることがなくなり、認知能力がさらに低下するかもしれません。そのため、必要なときだけに注意や指示を行うことが重要です。
自宅に閉じ込めてしまうこと
徘徊対策として、やむを得ず自宅に閉じ込めてしまうことがあります。とくに、家族が仕事のために側を離れるなどして認知症の人が一人になってしまったり、夜間に徘徊してしまったりする場合には、この方法が取られるでしょう。
しかし、これは虐待にもなり得ます。見当識障害によって、今いる場所が自宅ではないと思ってしまう場合もあるため、徘徊が悪化するかもしれません。
認知症によっておこりやすいトラブルと対処方法
最後に、認知症の症状によって起こりやすいトラブルへの対処法について紹介します。
徘徊をしたことがある場合
まず、徘徊の原因を知ることが大切です。一緒に歩き、さりげなく質問をして原因を探りましょう。また、過去の習慣をそのまま行っている場合もあります。
たとえば、会社に出勤しようとしたり、子どもの送り迎えをしようとしたりすることがあります。そんなときは、頭ごなしに否定せず「今日は会社は休み」「今日の送り迎えは自分がするから大丈夫」と話してみましょう。
手づかみ食べをしてしまうとき
このトラブルが起こる原因は、箸が使えなくなったことをうまく言語化できず、苦肉の策として手でなんとか食べようとすることにあります。ショックは大きいですが、叱責するのはNGです。
箸の使い方を教えたり、スプーンやフォークで食べられるようにしたり、食べやすいサイズにカットするなど、手で食べるのが普通なパンやおにぎりなどの食材を提供するのもよいでしょう。
金銭管理が難しくなったら
認知症の症状を抱えていると、大金を使ってしまう可能性があります。家族は心配ですが、財布を取り上げると本人は家族に不信感を抱くことがあります。
金銭管理ができていないと本人が自覚していない場合もあるので、自尊心を傷つけないように注意が必要です。大金を預けるのが不安な場合は、貴重品を入れず、小銭を少し入れた財布を渡すとよいでしょう。
幻覚や幻聴を訴えるようになったら
まずは否定せず、原因を特定して適切な対応を行いましょう。疲れていると無視したくなるかもしれませんが、本人は恐ろしい思いをしています。寄り添って、少しでも安心させてあげましょう。
幻覚や幻聴はレビー小体型認知症に多いといわれており、症状が強い場合は医療的な対応が必要となることもあります。認知症の専門医に相談しましょう。
怒りっぽくなる性格の変化には
認知症によるものなのか、通常の心理のうえでの苛立ちかを見極めましょう。もし怒ってしまった場合は、寄り添ってじっくりと話を聞きます。暴力や暴言が目立つ場合はいったん距離を置き、落ち着いたら話をしましょう。
まとめ
認知症の家族との上手な接し方について、基本的なポイントを紹介しました。認知症の人の言動を否定せず、優しく寄り添うことが大切です。また、同じ話を何度も繰り返しても真剣に聞き、安心させることも重要です。避けるべき接し方として、一方的な叱責や細かい指示の繰り返し、自宅に閉じ込めることがあります。徘徊や手づかみ食べ、金銭管理の困難、幻覚・幻聴、怒りっぽくなるといった症状にも対処法を工夫しましょう。介護がどうしてもつらくなったら、介護施設や行政に相談をもちかけ、ひとりで抱え込まないようにしましょう。